静かな三日月
外へ出てみると日はとっくに沈んでいるいるものの、空はまだ明るかった。
水色の空に薄灰色の絵の具が流し込まれて夜がひたひたと忍び足で
やってくる。
その中には低い高さで爪を切ったような細い三日月が静かに浮かんでいた。
僕は空を見上げて遠い昔、幼い子供の頃を思い出した。
六月灯の時に見た空。
母に着せてもらった浴衣。
あちこちに吊り下がっている提灯とそのぼんやりとした明かり。
綿飴屋やりんご飴屋から漂ってくる甘い香り。
今は全然興味が無くなってしまったけれどもあの頃は六月灯の開催が
楽しみだった。
夜暗くなって外にいれるだけでわくわくしていた。
そんな気持ちを思い出させる空だった。