落ち着かんお茶
急な容態の悪化に依って入院先から呼び出されるかもしれない
それに対応できるよう、暫くビールは飲まない
仕事帰りにお茶
ビールは飲まんが、コーヒーは良かやろ
しかし以前と比べて、ささっと終わらせ、さっと帰りのJRに乗ってしまう
リラックスの時間の筈なんだけどなぁ
急な容態の悪化に依って入院先から呼び出されるかもしれない
それに対応できるよう、暫くビールは飲まない
仕事帰りにお茶
ビールは飲まんが、コーヒーは良かやろ
しかし以前と比べて、ささっと終わらせ、さっと帰りのJRに乗ってしまう
リラックスの時間の筈なんだけどなぁ
誰にだって別れは必ずやって来る
だって、人間は必ず死ぬのだ
これは誰にも避けられない事実だ
昨日書かせてもらった担当医からの説明
覚悟はしていたが、予想以上に悪いものだった
入院時よりも見た目は回復傾向にあるので「もしかして」と淡い期待もあった
でも実際は厳しい話だった
その話を聞いて母は重い溜息をついた
「もう、しょんなか。やる限ぃやったで、しょんなか」
(もう、しょうがない。やれる限りの事はやったのだからしょうがない)
寂しげにつぶやいた
主治医からはタイムリミットも聞かされた
父は主治医が何と喋ったのか結果を知りたがっていた
でも本人に真実を伝えるわけにはいかないだろう
父の寝ている病室で買ったばかりの文庫本を読んでいる
読むには読むが頭には入らない
文字列をただ目で追うだけだ
この前は散髪に行ってきた
散髪屋に向かったが店に早く着きすぎた
予約の時間までまだあったので近くの本屋へ行った
時間を潰すために
以前は仕事帰りによく本屋へ立ち寄った
ネットが今のように整備されていない頃、本屋での立ち読みは貴重な情報源だった
しかし今では本屋へ足を運ぶことは無くなった
ネットのコンテンツが充実した上に、肝心の本さえネットで買うようになったからだ
その本屋では何処に何の本が置いてあるのか、そして、自分がどの本に興味があるのか分からなかった
店内をうろうろしてようやく辿り着いたのは文庫本のコーナー
面白そうなタイトルが平積みしてあり、そのうちの幾つかをペラペラとめくる
最近の空いた時間ではケータイばかり、だらだらと見ている
この機会に1冊買って読んでみようと思った
飽きやすい僕が読みやすいように選んだのはエッセイ集
一桁のページ数でひとつの物語が終わる短編集だ
どうやら新聞の連載を1冊にまとめた本らしい
小銭数枚を支払い、本屋を出た
そろそろ散髪の予約の時間だ
そして今、僕はその文庫本を手に父のベッドの横に座っている
父は人工呼吸機を付けて横たわっている
担当医から今日は病状について説明があるとの事で有給を使い、やって来た
さて、どんな話になるのか
せっかく読みやすい文庫本を選んだのに、全くもってストーリーが頭に入っていかない
母は父の入院している病院へ通っている
高齢の母が地方の自宅から地方の病院へ長距離の移動だけでも大変である
僕は休みの度に母の送り迎えも兼ねて病院へ行っている
そんな中、最近僕は体がだるい
どうやら体調を崩したようだ
先日の連休も病院で過ごした
父に会いに行くことも大切だが、自分の体調管理も大切だ
と言う事で、今日の休みは悪いが自宅で寝ていた
自分の治療の為に病院にも行った
母親は相変わらず病院へ通っている
「何とも無い」
気が張っているのだろう
体調が心配である
毎日、見舞いに通う母親から父の容態を聞く
「だいぶ調子が良かど」
仕事で休日しか病院に行けない僕としては、にわかに信じがたい
そんな風に言うのは恐らく僕を安心させる為だろう
ようやくやって来た休日
病院へ向かう
これまでに状態の危うい日もあった
生きた父と会うのはこれが最後と覚悟を決めた日もあった
しかし病室へ行ってびっくり
父は顔色も良く穏やかにしている
ベッドの背を少し起こし、腕には腕時計をはめて、携帯電話を触っていた
以前は無意識に暴れる為に両腕はベッドに縛り付けられ(点滴の針が取れてしまう)、話しかけても意識は無く、目はとろんとしたままだった
なので、信じられん
処置の関係上、話すことは出来ない
しかし、あいうえおボードさえ使えなかったのに今はノートに自分の気持ちを書くようになった
周囲からは「さすが、海の男だ。帰ってきたね」と言われた
「もう無理だろう」と思っていただけに嬉しい
そう言ってもベッド周りの機械から延びた管が幾つも体に繋がっている
まだまだ安心出来ないだろう
少しづつ時間を掛けて見守るしか無い
お仕事帰りに病院へ行ったときはベッドの背もたれが斜めに上がり、少し起き上がった状態だった
鎮静剤も弱められ、意識もしっかりしている
昨日の様子と全然違い、「回復に向かっているんだな」
そう感じられ、嬉しかった
時間も遅い
明日も仕事だ
今日は体調が良さそうなので、このまま帰ろう
帰りに近所のスーパーで売れ残っていた安売りの惣菜を買った
その晩ごはんを自宅で食ってる途中、出来事は起こった
「シャッ!」
それは部屋の窓のカーテンを強く引いたカーテンレールの音
カーテンの所には誰もいない
次の瞬間、電話が鳴った
父の入院している病院からだった
「急に再び悪化した。処置を行っているが場合によってはご家族は病院へ来てもらう事になるかもしれません」
昼間は調子が良さそうだったので、夜は安心していた
しかし家族一同、再び不安に包まれる
落ち着かない
慌ただしく食事を終えて、お風呂もそこそこに
いつ電話が来ても良いように備えた
幸いにも昨晩は電話は鳴らなかった
しかしあまり眠れぬまま朝を向かえた
またいつ、病院から電話が来るか分からない
不安な毎日
それにてもカーテンが勝手に動き、音がしたのは間違い無い
もしかしたら昏睡状態の時に父が自宅へやって来て家族の様子を見に来たのかもしれない