文庫本
父の寝ている病室で買ったばかりの文庫本を読んでいる
読むには読むが頭には入らない
文字列をただ目で追うだけだ
この前は散髪に行ってきた
散髪屋に向かったが店に早く着きすぎた
予約の時間までまだあったので近くの本屋へ行った
時間を潰すために
以前は仕事帰りによく本屋へ立ち寄った
ネットが今のように整備されていない頃、本屋での立ち読みは貴重な情報源だった
しかし今では本屋へ足を運ぶことは無くなった
ネットのコンテンツが充実した上に、肝心の本さえネットで買うようになったからだ
その本屋では何処に何の本が置いてあるのか、そして、自分がどの本に興味があるのか分からなかった
店内をうろうろしてようやく辿り着いたのは文庫本のコーナー
面白そうなタイトルが平積みしてあり、そのうちの幾つかをペラペラとめくる
最近の空いた時間ではケータイばかり、だらだらと見ている
この機会に1冊買って読んでみようと思った
飽きやすい僕が読みやすいように選んだのはエッセイ集
一桁のページ数でひとつの物語が終わる短編集だ
どうやら新聞の連載を1冊にまとめた本らしい
小銭数枚を支払い、本屋を出た
そろそろ散髪の予約の時間だ
そして今、僕はその文庫本を手に父のベッドの横に座っている
父は人工呼吸機を付けて横たわっている
担当医から今日は病状について説明があるとの事で有給を使い、やって来た
さて、どんな話になるのか
せっかく読みやすい文庫本を選んだのに、全くもってストーリーが頭に入っていかない
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