父は生死を さ迷う
ひとり乗りの小さな船
父はその船に乗って対岸に向かい、船を漕いでいる
対岸ではとっくの昔に亡くなったはずの父の友人が「早くこっちへ来い」と手招きをしている
船を出したであろう元の岸を振り返ると僕と母が「そっちへ行ったらダメだ」 「戻って来い」と父に必死に叫んでいる
父は「そこにいたのか」と船をUターンさせ、元の岸辺へ戻った
すると、そこで目が覚めた
父はベッドに横たわっており、医者が3名、看護師が数名、ベッドに寝ている父を取り囲み、深刻な面持ちで顔を覗き込んでいた
別の日のこと
広く薄暗いお寺のお堂には太く大きな柱が何本も立っている
その間を父はぐるぐると行ったり来たり
そこでも前回のように片方では古い友人が、もう片方では僕たち家族が父を呼んでいる
父は今回も家族の方へ行ったところで目が覚めた
喉元の管が取れて、父はそんな話をしてくれた
入院中は確かに2回ほど病院から「危険な状態なので、ご家族は集まってください」と連絡があった
恐らくこの時に父は生死をさ迷う夢を見ていたのだろう
もしも父が古い友人の方へ行ってしまっていたら、もしかしたらそのまま亡くなっていたのかもしれない
よく帰って来てくれたね
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