喉の管を外す
入院先へ見舞に行った
父はベッドの脇に座り、両足は素足のまま、だらりと下ろしている
リラックスした表情だ
喉元を切開し、強制的に酸素を肺へ送り込んでいた人工呼吸器の管は外されている
今までは刺さった管が邪魔をして声を出すことも食べ物を食べることも出来なかった
勤務先の先輩からは「喉に管を繋ぐと、もうお仕舞いだよ」
「僕の両親は二人とも管を付けたら、すぐに逝ってしまった」
担当医からも
「悪くなることはあっても、回復することは奇跡に近い」と言われていた
そう聞いていたので「父もこのまま亡くなるだろう」と思っていたし
「父の声を聞けることは2度と無い」とまで思っていた
それが今や話をして、流動食で食事の練習をしている
全く信じられない
痩せ細った父は、かすれた声で僕を近くに呼び寄せた
そして入院中の或る不思議な体験を話し始めた
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